東京のたい焼きほぼ百匹手帖

立東舎
イワイサトシ
2015年9月25日第1版発行 四六判・144頁 本体1,400円+税

















たい焼きを天然と養殖に区別して呼ぶことは
近年有名になってきてご存じの方も多いだろう。
一匹ぶん(二匹を含む場合もある)の型で
別々に焼くのが天然ものであり、
6~10匹ぶんぐらいの型が一枚の鉄板になっていて
一度に焼けるのが養殖、ということである。

天然と養殖に味の差はない。
ただ、鯛の形であるところからそう呼ぶようになった、
言葉遊びのようなものだろうが、実際のところ
見るだに楽しい和菓子だ。

なんで鯛の形にしたんだろう。
大判焼き(今川焼き)は同じ材料なのに、
形が鯛になっているだけでなんだか愛着が深まる。

「およげ!たいやきくん」は私が生まれる前の歌だが
当然知っているし、歌のおかげでたい焼き屋に
行列が出来たのも知っている。
なんなら歌のモデルのたい焼き屋「浪花家」(麻布十番)
にも行ったことがある。
大判焼きでは社会現象にまではならなかったはずだ。

前書きに記されている、著者のたい焼きに対する深い愛は、
相手が丸い形の大判焼きだったら育まれなかったのだろう。
慈愛に満ちた「たい焼き紹介記事」は味にも店にも
優劣を付けていない。もちろん点数も付かない。
ただ愛だけがある。
下手なグルメ評論本よりも、空腹を助長する危険な本である。

念のため添えておくが、私は大判焼きも大好きである。
高校生時分、駅の近くで磐井焼というのを売っている店があった。
大判焼きの餡の中にバターが入っている。
手袋もせずに自転車をこいで冷えた手で包むよう持って
かぶりついた味と香りと光景は、今でもときどき夢に見る。